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「イバイロ。
彼が明確な敵意を示すまでは、決して手を出すな」
「分かってるよ。
俺もそこまで馬鹿じゃねぇ」
念を押すように言い放つギャザリンへと、イバイロは反論なく従う。
自制が効くからこそ、アリッシュに危害を加えていない。
対外的なしがらみが無ければ、今頃行動を起こしている。
「けどよ、ギャザリン」
イバイロは真っ直ぐにギャザリンを見据え、厳かに口を開く。
危惧する処を、せめて言葉にせずにはいられなかった。
「何があっても、絶対にアイツだけは信用するな。
アイツは必ず敵になる」
何故そう思うのか。
理由などなかった。
けれど、イバイロには。
不鮮明な未来の筈なのに、その確信だけが在り続ける。
アリッシュと戦う、その場景が思い描ける程に。
「忠告はしたぜ?」
「分かった。
胆に命じておこう」
イバイロの言い様に、思う処が無い訳ではなかった。
けれど、強者の第六感は馬鹿に出来ない。
加えて、イバイロはこれまで自身を支え続けてくれた将軍の一柱。
良く知りもしない人物と、彼のどちらを信用するのか。
それは考えるまでもない。
とは言え、件の英雄は、現段階では何のアクションも起こしてはいない。
そんな人物を、こちらから刺激する訳にもいかないだろう。
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