邂逅の時

54/54
90人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ
「それで? あんた自身の見解はどうなのよ?」 無遠慮なレゾの問いを受け、ギャザリンは苦笑する。 「彼は思慮深く、頭もいい。 加えて洞察力も相当なものだ。  敵にはしたくないな」 「ギャズもテイカー君は危険だと思う?」 アリッシュの印象を語るギャザリンに、エクストラが問う。 それに対し、黒の王は頭を振った。 「いや、俺にはそうは見えなかった。 彼は、恐らく戦闘行為に否定的だ。 事前にレゾから聞いていた人物像に、やはり近い印象を受けた。 問題の王子側に加担するような性格ではないだろう」 「では、どうするのだ?  何もしないのか?」 反応を窺うレザーナに、ギャザリンは首肯する。 「王子側や、反体制派への警戒に努めてくれ。  今はそれでいい」 「今は、ね」 含みのある言動に、レゾは嘆息する。 「イバイロの直感だけを鵜呑みには出来ない。  だが、先行きは不明だ。 もしもの場合は、対処する事を念頭に入れておいてくれ」 ギャザリンの決断に各自異論はないものの、それでも、レゾとエクストラには躊躇いが見て取れる。 イバイロを無視する訳ではないが、アリッシュという人物は、実直で生真面目、尚且つ生産的な趣向の持ち主と記憶していた。 故に、自らを窮地に立たせるような振る舞いを、彼が行うとは思えなかった。 感情論を度外視しての、客観的な視野でそう思えるが故に、イバイロの反応に困惑してならない。 来る明日に差した、不鮮明な影。 それを、一同は意識せずにはいられなかった。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!