流転の先に

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シルバニア王との会見の後、宿泊先に向かう道中。 アリッシュは活気溢れる街並みを背景に、考えを巡らせる。 国王との会談は、懸念は残るものの無難に済ませられたつもりだ。 今回の件には、少なからず打算的な思惑がある。 どちらに転ぶか現時点では判らないが、レゼンブルムのように、国の政策に振り回される可能性は低いだろう。 アリッシュは、何も優遇されたい訳ではなかった。 只、他の住民のように生活したいだけだ。 社会に触れ、只人として生きる。 それこそが今のメイに必要で、救いとなる筈。 彼女が救われる事を願い、それが自身の幸福にも繋がる。 そう信じて、今は邁進して行きたかった。 新天地を求めて、その先にある生活。 その具体案を、少年は模索していた。 シルバニアで生きるのならば、国の意向を全て無視するのは不可能だ。 けれど、国と密接に拘わる立場は好ましくない。 移住希望を申請しようか? しかし、結論付けるのは時期尚早な気がする。 懸念するのは、やはり自分達の保有する、強者としての武力や知識。 普通に生活するのなら、過ぎた力だ。 けれど、何か生活を築き、支える術にはならないだろうか? これまで磨き続けた己れの力。 只無駄にする事もない。 「あ……」 そんな折、視界に捉えたある人物が目につく。 前方を歩く、1人の亜人男性。 彼が知人であるとか、そういう訳ではない。 只、彼の容姿……というか、身に纏っている装備が気になった。 大きなリュックサックに、ベルトに固定されたポシェットや短剣が数本。 細かな傷が窺える軽鎧に、使い込まれただろう片手剣を腰に差している。 正規の兵には見えず、ちらほらと軽装備の人々が居る中にあっても、その人物の風貌は、街中で浮いて見えた。 「……あの人って、もしかして……?」 自分の横を素通りしていった彼の後ろ姿へ、アリッシュは引き寄せられるように着いて行く。 それは知的好奇心に因るものか、それとも。 何にしても、アリッシュは彼が気になって仕方無かった。 「……ここは……」 暫く歩んだ先の、大通りから1本外れた通りにある3階建ての木造の建物に、先を行く男性は躊躇いなく入って行った。 その建物に掲げられた看板。 そこには、冒険者ギルドと表記されていた。
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