流転の先に

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「冒険者……」 そのワードは、養父を想起させる。 過去に冒険者として、この地で生活していたジェネクス・ラムドリア。 彼の語っていた体験談と、苦笑する声音が思い出される。 生前の養父が歩んだ道程を前に、言い様の無い興味を引かれた。 しかし同時に、その扉を前に躊躇いと緊張がある。 今尚敬愛して止まない、偉大な養父の背がちらつく状況に、少なからず自身を照らし合わせて畏縮してしまう。 アリッシュの中で、ジェネクスの存在はやはり大きく、強い影響力を持つ。 それ故か、養父との関連性を必要以上に意識してしまっていた。 そうして暫しの間、冒険者ギルドの入口を前に立ち尽くしていたものの、不意に周囲を意識し始める。 ここは大通り程込み合ってはいないものの、それでも多くの人々が行き交っている。 そんな往来で、いつまでも佇んでいるのは憚られた。 少年は意を決し、重い足を前へと進める。 亡き父の足跡を追うかのように、アリッシュは、その一歩を踏み出した。 「……失礼します」 緊張を隠せぬままに、木製の扉を静かに押し開ける。 中の様子を窺いながらの入店。 まず目に入るのはカウンター。 軽食等を取れそうなものとは別に、受付用の区画が設けられている。 視線を横に向ければ、長テーブルに合わせた椅子がセットで数ヶ所設置されていた。 そちらでは、先に入店していた亜人男性が、難しい表情で仲間内だろう数人と会話している。 その隣のテーブルでは、別のグループが地図を広げて思案顔だ。 入店したアリッシュに関心を示す者は居ない。 が、カウンター奥で入口に背を向けていた1人の女性が、振り返り様にアリッシュを視界に捉えると、やや当惑した様子で声を掛けてくる。 「どうしたんだい、お兄さん。  若い者がギルドとは珍しい」 実際の年齢より幼く見える容姿のアリッシュを前に、怪訝そうな表情の女性。 どうやら、冒険者ギルドにはそう若者は訪れないらしい。 その女性の年の頃は、恐らく四十代前半と言った処か。 中肉中背で、幾分吊り目で勝ち気そうな印象だが、優しげな眼差しは、面倒見の良い母性を感じさせる。 「その……冒険者ギルドがどんな所かなって、気になったもので……」 真意はどうあれ本当に只それだけなので、素直に受け答えた。
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