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「ふぅ~ん……」
そんな少年を、繁々と観察する女性。
今のアリッシュは、ギャザリンとの会見後の為、武具の類いは何も身に付けてはいない。
にも拘わらず女性は何かを感じたのか、僅かながら目を細める。
「あんた……そんなナリで相当やるね。
今まで何してたん……いや、詮索するのは野暮ってもんだね」
嘆息する女性を前に、アリッシュもまた苦笑を浮かべるのみに留める。
今まで。
別段、それを努めて隠そうとは思わない。
けれど、容易く口にするには重く、あまり言葉にしたくはなかった。
「まぁ、座りなよ。
何か飲むかい?
サービスしとくよ」
「ありがとうございます。
お言葉に甘えさせて頂きます」
アリッシュの返答に気を良くした女性が、向かいのカウンター席を顎で示す。
それに習い、椅子に腰を落とした。
「……それで?
何が知りたいんだい?」
柑橘類のジュースの注がれたグラスをカウンターに差し出し、只の興味本意で来た訳ではないだろうと、女性は推察して問い掛ける。
実際は女性の深読みなのだが、少年は確かに知りたい事があった。
「冒険者という職業について知りたいです」
当たり障りのない問言。
観察眼の肥えているだろう女性にとって、その質問は逆に意外だった。
「……あの?」
「ああ、ごめんよ。
てっきり、もう少し込み入った質問が来るかと思ってね。
あたしの悪い癖だよ」
まじまじとアリッシュの表情を見据えていた女性が、落ち着いた素振りで言い繕う。
「そうさね……何から答えようか。
お兄さんは、冒険者についてどれくらい知っているんだい?」
「あまり詳しくは。
冒険者だった人から、体験談を聞いたくらいなんです」
「そうかい。
なら……基本的な事から話していこうかね」
女性は一拍間を空けて説明を始める。
恐らく、これまでもそうして多くの新人やギルドへの訪問者を迎えて来たのだろう。
「冒険者は、別名で開拓者とも呼ばれてる。
何故、このギルドがあるか知ってるかい?」
「良くは知らないです。
未開拓領域の探索を目的としている事から、そうした組織が必要だったからですか?」
「間違ってはいないけど、それには補則が必要だね」
女性は首肯の後、内容を掘り下げて説明していく。
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