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「元々、領土の拡充と資源の確保は国が推進してきた事だ。
国民の安全と国土の安定は、そのまま国の強さに繋がる。
現に今も、国名が変わろうと、国内の統治は国の管轄で義務でもある。
政策や法律に変化が有ろうと、実際の基板は揺るがない」
ラミラリーダ王国からシルバニアへ。
情勢が移ろおうが、国益と国民を守るという目的が変わる事はない。
「けど、一定の秩序が確保されれば、優先されるのは開拓ではなく安定だ。
国内の利潤がそれなりに回る状況なら、わざわざリスクやコストの高い開拓に予算は割かなくなる。
例えば国境線を敷く為に、どれだけの被害が出たか知ってるかい?」
「いいえ」
「ラミラリーダの場合、隣国との協同で、5年掛けて行ったらしい。
その間に出た被害者の数は、凡そ1万人。
極端な例な上に、普通は徐々に開拓地を広げていく訳だから、そこまでの被害が出るなんて事は有り得ないんだけどね。
けど、『テラー』の生息する未開拓領域に踏み込み、開拓や探索を行うってのはそういう事さ」
隠す事なく、女性は開拓の危険性を語る。
アリッシュは、レゼンブルムで幾つもの死線を潜り抜けて来た経緯から、『テラー』の脅威を嫌が応にも理解していた。
その為、真剣身を帯びた女性に、同様の視線で応える。
「それでも、やはり開拓という行為は必要なんだよ。
資源ってのは、いずれ尽きていくものだからね。
国内が纏まり、充足していく程に、それは顕著なものとなる。
けどね、そもそも資源の確保は容易じゃない。
未開拓領域の何処に眠っているかなんて、魔法を使ったって直ぐには見付からないし、それなりの期間を費やしても、発見に至らないなんてのはざらだ。
資源探索は、ハイリスクなギャンブルみたいなものさね。
そんなものに、いつまでも人員と予算を注ぎ込んではいられない」
ここまでで、十分に話は見えた。
アリッシュも得心がいったと頷く。
「それで、代行となる組織が必要になったんですね」
「そういう事。
未開拓領域の探査を専門とした組織を立ち上げ、依頼する事で国の負担を減らした。
それが、冒険者ギルドの成り立ちだね。
他国の事はあまり知らないんだけど、恐らく、殆んどの国が今も領土に未開拓領域を抱えてる筈だよ。
だから、他の国にもあたしらんとこのギルドみたいなのがあるんじゃないかね?」
一区切り着いた処で、女性は自分が飲んでたグラスを口にした。
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