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「そうした背景が、今も色濃く残ってる。
だから、国からの依頼はそれなりにあるよ。
尤も、今は商人や個人からの依頼もけっこう多いかな」
「例えば、どのような依頼が?」
「そうさね……
流通数の少ない貴金属の採掘や、魔素の濃い一帯でないと採れない薬草の採取、果ては国との協同で行う未開拓領域の生態系調査なんかも割と多いね。
基本的に保安は軍が行うけど、手が足りない時は、たまにこっちへ要請が来たりもするよ。
特に、最近は人口の増加で開拓計画が進んでる処だから、専門家のギルドとの連携が増えててね。
現に、今此所には居ないギルド員の内の2割方が、国の調査団に同行してる」
国との連携。
今の心情をつい照らし合わせ、もし自分がギルド員ならと思案してしまう。
「後は、そうさね……独立探索なんてのもあるよ」
「独立探索?」
そのワードに、反射的に反応させられる。
「依頼とは関係の無い、未開拓領域を探索する事さ。
リスクは何処でもあるけど、更にそれに輪を掛けて成果まで不確かさ。
そりゃそうだね、目的が定まってないんだから。
依頼じゃないから報酬も支度金も無い。
ギルド員は未開拓領域での活動が許可されているけど、特にギャンブル性の高い独立探索は、今じゃ好き好んでやる奴はいないね」
「……」
女性はそう語るが、アリッシュは興味が沸いて仕方無かった。
「……昔は居たんですよね?
どんな人達でしたか?」
「うん?
数は少ないけど、風変わりな奴らだったよ。
単身で探索に行くような奴まで居たけど、腕は一流だったね。
プロとしての気概も忘れない、知的好奇心に素直な奴らだったよ」
語られる印象の中に養父も居たのかと思うと、僅かな感傷が過る。
それでも、アリッシュの表情は自然と綻んでいた。
「まぁ、独立探索はデメリットが大きいけど、1つだけ特権があってね。
なんだと思う?」
女性の問いに、アリッシュは妥当な推察を口にする。
「発見物の専有、または権利の取得でしょうか?」
「正解だね。
国との協同依頼とかは色々あるけど、基本的に依頼物以外の発見は、冒険者の物となる。
稀に遺跡で発見される情報なんかも、放棄しない限り発見した冒険者に帰属する。
成果は不確か。
それでも、冒険心を忘れられない奴らにとっては、魅力的な話だったんだろうね」
懐かしむように、女性は柔和な笑みを湛えていた。
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