第一章

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あの日は、寒い夜だった。 父さんの仕事が上手くいった祝いだと、 母さんが夕飯にすき焼きの仕度をしていた時だった。 「あら、うっかりしていたわ。 卵が足りないみたい。 誰か近くのコンビニで買ってきてくれないかしら?」 「えー、私は嫌だよ。寒いもん。お兄ちゃん買ってきてよ。」 「俺は部活で疲れてんの。姉ちゃん買ってきてよ。」 「もう。それじゃあ、公平にじゃんけんで決めましょう。」 その結果、じゃんけんに負けた俺は、 自転車で近くのコンビニに向かった。 外は寒く、俺は力一杯自転車をこいだ。 「ただいま。 あ~、腹減った。夕飯の仕度終わった?」 そう玄関で呼びかけても、何の応答もなかった。 「何だよ。せっかく卵買ってきたのに。聞こえてんの?」 俺が居間のドアを開いた時だった。 今でも鮮明に覚えている。 血に染まった、姉と妹の姿を。
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