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その中を行くのは来た時と打って変わって、商売人よりも剣呑な雰囲気を纏った輩や、白粉くさい女達。ちらほら堅気も見えるか……。
ソイツ等は皆、ゆのかを見てはすぐに目を逸らす。
神田が住まいと言ってたから、これは普段からの光景なのかもしれない。
「楓さん、あの角を曲がったら、すぐ診療所ですよ」
こちらに向けられる無垢な表情には何のてらいもなくて、何だってこの子がそんな目で見られなきゃいけないのかと、憤りすら感じる。
まあ、あたしも人の事言えた義理じゃあないけれど……
初対面の時の己を振り返り、ひっそりと恥じる。
──人を見た目で、判断しちゃいけないってね。
吉原なんぞで生きてきて、なおのこと身に染みていたはずの事を、今更ながらに思い出させられた。
ゆのかに、感謝かね。
もう少し話をしてみたいとは思うが、そろそろこの道行きにも、別れが迫って来たみたいだ。
『元より、この子を関わらせるつもりも、なかったんだから』
角を曲がり、閑静な平屋を目前に、心の中で呟く。
鬼などとは無縁そうなこの娘を巻き込んだとあっちゃあ、紫太夫の名折れだ。
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