十.動き出す悪意

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その中を行くのは来た時と打って変わって、商売人よりも剣呑な雰囲気を纏った輩や、白粉くさい女達。ちらほら堅気も見えるか……。 ソイツ等は皆、ゆのかを見てはすぐに目を逸らす。 神田が住まいと言ってたから、これは普段からの光景なのかもしれない。 「楓さん、あの角を曲がったら、すぐ診療所ですよ」 こちらに向けられる無垢な表情には何のてらいもなくて、何だってこの子がそんな目で見られなきゃいけないのかと、憤りすら感じる。 まあ、あたしも人の事言えた義理じゃあないけれど…… 初対面の時の己を振り返り、ひっそりと恥じる。 ──人を見た目で、判断しちゃいけないってね。 吉原なんぞで生きてきて、なおのこと身に染みていたはずの事を、今更ながらに思い出させられた。 ゆのかに、感謝かね。 もう少し話をしてみたいとは思うが、そろそろこの道行きにも、別れが迫って来たみたいだ。 『元より、この子を関わらせるつもりも、なかったんだから』 角を曲がり、閑静な平屋を目前に、心の中で呟く。 鬼などとは無縁そうなこの娘を巻き込んだとあっちゃあ、紫太夫の名折れだ。
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