十.動き出す悪意

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「そうは言ってもさ、ここは診療所だよ。いざとなりゃ、医者に診て貰うさ」 ゆのかの不安に満ちた眼差しを払う様に、ひらひらと手を振る。 何か言いたげながら、言葉に詰まるゆのかに、 「もう日も暮れる。こっちのが心配しちまうよ」 畳み掛けるべく続ければ、眉尻を下げ、小さな肩を落とした。 ──諦めてくれたかねぇ。 一つ息を吐き出したその時、勢い良く頭を下げられ、思わず半歩足が下がる。 「楓さん。あの……楓さんが、言ってくれた言葉のおかげで、私は自分の気持ちと向き合う事ができました。だから」 顔を上げ、こちらを見る目は澄みきって真剣だ。 「そんな楓さんを、体調が悪いかもしれないのに、置いて離れたくありません。我が儘であるのは分かっています。でも……楓さんの用が済むまで、その間だけ……お傍にいたいです。許してもらえませんか」 ──こりゃあ、こっちの負けか。 これ以上言葉を連ねても、この子の意志を曲げるのは難しいだろう。 あれだけおどおどしていたってのに、その欠片すら感じられない訴え。これを跳ね退けるのは、あたしには出来そうもない。 この子の『人を想う気持ち』は、本物だ。
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