十.動き出す悪意

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開いたその先に、医者がいるものと思っていたけれど、見回しても姿はない。 「勝手に邪魔して悪いけど……こっちも急ぎでね」 改めて視線を巡らせて、見知った顔を探す。 苦痛に歪む表情は、顔立ちの判別が難しい。 だが、 ──っっ!! ……いた。 びっしりと肌を覆う黒い痣に驚きはあるが、何とか刀次の子分を見つける。 それにしても。 黒々と、悪意の塊の如くに身体中にへばり着く痣は、見ているだけで、息苦しさを感じさせられる。 こいつは本当に鬼の仕業かも、しれないねぇ。 となれば、益々もって、これ以上ゆのかを関わらせられない。 早々に終わらせるべく、静かに意識を整える。 そのまま、布団の横に座し、 「頼んだよ、憑世見」 声を掛けた。 隣では、訳が分からないままに、ゆのかが固唾を飲んで見守っている。あたしが何かしようというのは、感じ取っているんだろう。
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