十.動き出す悪意

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『楓、このままでは……』 らしくなく、憑世見の声に焦りが滲んでいる。 分かってるさ……けど、こいつは厄介だ。 引き摺られない様、気を張るが、突破の糸口が皆目見当たらない。そして、そうしている間にも、蝶は十重二十重と垣根を厚くして行く。 このままじゃ…… 黒い渦に意識を飲み込まれる刹那── ……さん……か、で……さん……楓さん!! 眩い光が照らし、あたしを呼ぶ声が届く。 そのまま光は瞬く間に広がって、咄嗟に目 を閉じた。 しばらく光の中を立ち尽くして、段々とそれが和らぐのを感じる。 そろりと片目ずつ開けば、そこは呻き声に満ちた、薄暗い診療所だった。 ゆのかが、こちらを覗き込んでいる。 目を開いたあたしを認めると、形の良い眉が八の字に垂れ下がった。
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