十.動き出す悪意

13/27
前へ
/179ページ
次へ
「かっ、楓さんっ……楓さん、うぅっ、良かった……う、動かない、から……」 ぼろぼろと安堵の涙を溢れさせ、力なく笑む。 その姿に、今更ながらに何の話もせず、憑世見を呼び出した間違いに気付いた。 「悪かったね、心配かけちまった。あたしは今、落ち神で病を探ってたのさ」 だから安心しなよと、ゆのかの頭を軽く撫でてやる。 小さく息をついたゆのかは 「楓さんの、落ち神様……」 気になったのか、ぐるりと視線を廻らせ、不思議そうに首を傾げた。 まあ、当然ながらあの憑世見が、易々と姿を見せる訳はないんだけど…… 苦笑いながら、それでも挨拶くらいはさせてやろうと、口を開きかけた時── 『案ずるな、娘よ。楓には、この私が憑いている』 こいつは、珍しい事もあったもんだね。 自分の口から勝手に飛び出した言葉に、内心で驚く。あたしを通じてではあったけれど、自ら声を掛けるなんて、天地がひっくり返っても有り得ないだろうと、そう思っていたってのに。 ゆのかを気に掛けるあたしの気持ちが移りでもしたのかねぇ……
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加