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「かっ、楓さんっ……楓さん、うぅっ、良かった……う、動かない、から……」
ぼろぼろと安堵の涙を溢れさせ、力なく笑む。
その姿に、今更ながらに何の話もせず、憑世見を呼び出した間違いに気付いた。
「悪かったね、心配かけちまった。あたしは今、落ち神で病を探ってたのさ」
だから安心しなよと、ゆのかの頭を軽く撫でてやる。
小さく息をついたゆのかは
「楓さんの、落ち神様……」
気になったのか、ぐるりと視線を廻らせ、不思議そうに首を傾げた。
まあ、当然ながらあの憑世見が、易々と姿を見せる訳はないんだけど……
苦笑いながら、それでも挨拶くらいはさせてやろうと、口を開きかけた時──
『案ずるな、娘よ。楓には、この私が憑いている』
こいつは、珍しい事もあったもんだね。
自分の口から勝手に飛び出した言葉に、内心で驚く。あたしを通じてではあったけれど、自ら声を掛けるなんて、天地がひっくり返っても有り得ないだろうと、そう思っていたってのに。
ゆのかを気に掛けるあたしの気持ちが移りでもしたのかねぇ……
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