十.動き出す悪意

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「あなた達っ!ここで何をなさっているのです!」 語気を荒げて部屋に入って来た剃髪の男の叱責が、考えを中断させた。 この診療所の医者だろう男は、患者の傍らに座り込むあたし達に、不審の眼差しを隠さない。 「一体、患者に何を……」 黙って入って患者に近付いてりゃ、当然の態度だろうけど、ここで長々と手間取る訳にはいかない。 女がいつ刀次に手を伸ばすのか、ひょっとしたらそれは、もう始まっているかもしれないんだから。 「あぁ、すまないねぇ、お医者様」 内心の焦りはおくびにも出さず、鷹揚に手を降って見せれば、ほんの僅か、相手の表情が和らぐ。 「実は……白木の親分に頼まれてね。子分の容態に気に掛かる事があるってさ」 もちろん、嘘。刀次はあたしをなるべく関わらせない様、吉原に留めるつもりだったんだから。それに、もし本当だとしても、子分でなく、あたしを向かわせる理由がない。 しばしあたしをじっと見て、考え込んでいた医者は、一つ息を吐いて、肩の力を抜いた。 「まあ、白木の親分が突飛なのは、今に始まった事ではありませんが……夜分でございますし、一声は掛けて頂きたい」 やれやれ……普段の刀次の行動は褒められたもんじゃないけど、どうやらそのおかけで、苦言は呈されたものの、納得してもらえたらしい。
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