十.動き出す悪意

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「悪かったよ、急いでたもんだからさ」 申し訳なさそうに見える様、軽く眉を下げ、俯く。こんな時、吉原で培ってきたものが役に立つ。少し大袈裟なくらいが、心情を伝えるには丁度いい。 とは言え、その場凌ぎには違いないから、すぐにこの場を離れるべく、ゆのかの肩に手を掛けた。 「用も済んだからね、暇させて貰うよ。悪かったね、本当に」 そのまま肩を押し、部屋の外へと出る。少しだけ不安そうに、ゆのかが見上げては来たが、空気を呼んだか、何も言いやしなかった。 逃げる様に玄関へと向かい、踏み出せば、出迎えたのは、ほの明るい月の光。 こんな中、ゆのか一人で放り出せる訳もない。 ……このまま刀次の所に連れてった方が、まだしも、安心ってヤツかねぇ。 どうするか、逡巡する。 ──と、 「そこの綺麗ぇな、おあねぇさんよぅ」 べたりと、耳に貼り付く嫌な声が、門扉の向こうの闇から届いた。
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