十.動き出す悪意

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ざりざりと草履が砂を擦る音と共に、痩せこけた男が一人、姿を現した。 「あぁ、本当に綺麗ぇだねぇ」 口元を微かに歪めたのは、恐らく笑ったんだろう。その笑いに、ぞっと肌が粟立つ。 ゆっくりと、相手に気取られない様、ゆのかを背に庇いながら、男の風体を見定める。 手足は棒みたいに細っこく、まるっきり力は感じないが、異様とも言える目の濁り方が、あたしに気を抜かせない。懐手にした右手が、更なる不信感を煽る。 ──ゆのかを連れて来たのは、間違いだったね。 心の中で舌打ちするも、後の祭りだ。そんな事は、今更考えても仕方ない。 この場を切り抜けるが大事って、ね。 髪に差した簪をするりと引き抜き、身構える。 「ゆのか、動くんじゃないよ」 幾ら細くとも、相手は男。こちらから仕掛けるのは、得策とは言えない。 ──隙を伺って、逃げる。 それがこの場の、最善。
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