十.動き出す悪意

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そう判じて、まずは男の出方を伺う。 こんな時、自分の落ち神が戦いに向かないのは歯痒い。まあ、それ以上の恩恵に預かっちゃいるから、文句は言えないけど。 「そんなに恐い顔してちゃあ、別嬪が台無しだぁ」 睨み付けるこちらを嘲笑いながら、男が一歩踏み出す。 「はっ!あんたみたいなのに別嬪なんざ言われて、嬉しいもんかい!」 男の歩みに合わせて、少し足を退く。 ──診療所に逃げ込むべきか、否か。 いや、多分こいつは、お構い無しだろう。 狙いは、あたしなんだ。関係ない医者は巻き込めない。 背のゆのかが、かたかたと震える気配が伝わる。どうにか、この子だけでも。 目の端をそちらに向けた刹那、男がぐっと踏み込み、懐手を抜いた。 その手には、鈍く光る小刀。 手入れも杜撰そうで、大した得物じゃあないが、やっぱり丸腰じゃなかったみたいだね。
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