十.動き出す悪意

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空を切る音と共に刃が突き出されて、咄嗟に切っ先を掬い上げて反らす。 てんで為ってない素人の太刀筋だけど、思いもよらない力が込められていて、簪を握る手が、僅かに痺れている。 ──長期戦は、不利。 逃げの一手を打とうにも、背後にゆのか。門扉は男の向こうと来れば、儘ならない。 「あんまり暴れないでおくれよ、おあねえさん。傷が付いちゃあ、困るからよぅ」 あたしの頭の中を読んだ訳でもないだろうけど、相手はこっちの不利を、きっちりと分かっている様だ。 まあ、さして武勇に秀でてもない女が相手じゃあ、当然か。今の一撃で、こちらに力のない事は、伝わっちまったろう。 ……さて、ここからが正念場かね。 ぐっと、腹に力を込める。 「楓さん、私──」 「大丈夫だよ」 簪を握り直した所で掛かった、後ろから呼ばわる声を、みなまで言わせず被せて返した。 この子が言いそうな事は、聞かなくたって分かる。 『自分を置いて逃げろ』 そう言い出すに違いない。
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