十.動き出す悪意

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冗談じゃないよ。そんな真似しちまったら、あたしはこれから、顔を上げて生きらんなくなる。 黙り込んだゆのかの手を握り締める。逃げるんなら一緒、そんな気持ちを込めて。 ごく僅かな力だけど、ゆのかも握り返してくれた。 と、同時に、右上から小刀が振り下ろされる。握る手はそのままに、反対の手でそれを受ける。上から加えられる力が、先程の様に容易に受け流す事を許さない。 相手の刃とあたしの簪が、ぎりぎりと鍔迫り合いの音を響かせる。 当然、力の差が歴然である以上、少しずつではあるけれど、こちらの腕が押し戻されて行く。 何か、何か切っ掛けになりそうなものは……このままじゃ…… 流石に内心に焦りが浮かんだ、その時── 「そこの者、何をしておる!」 聞き覚えのある声が、男の背の向こうから届いて、まだまだ油断ならないが、思わず安堵の息が零れ落ちる。 地獄に仏とは、よく言ったもんだねぇ。いやはや石頭のお人だから、地蔵様かね。 焦りは消え、そんな事すら思ってしまう。
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