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「死にたくねぇんだよぅ、まだぁっ!」
形相は必死、出鱈目に刃を振り回すその姿。
読めない動きは、あたしやゆのかを案じる松之丞様を躊躇わせ、受け流す事に専念させる。
とは言えずぶの素人の太刀筋だ、いくら滅茶苦茶であろうとも、ただ機を伺っていたに過ぎないんだろう。
──キィン
軽く踏み込んだ、と見たときには、相手の得物は甲高い音と共に、宙を舞っていた。
そのままの勢いで男の腕を取ると、後ろ手に捻り上げて地に伏せさせる。
「くそっ……くそぅ……死にたくねぇ、死にたくねぇ」
未練がましく唸り声を上げ、じたばたと暴れる男の背に膝を着き抑えながら、松之丞様はこちらに目を向けた。
「済まぬが、人を。俺はこやつを抑えていなければならぬからな」
「あぁ、縄が借りられないか聞いてみるよ。また暴れられちゃ、敵わないからねぇ」
一つ頷いて返して、踵を返す。
また、医者にゃ手間を取らせちまうけど、仕方がない。
戸に手を掛けた。
──と。
「いっ、嫌だぁっ……死ぬのはっ……嫌だぁぁっっ!!」
一際大きな声に、足を止めざるを得ない。
振り返ったあたしの目に、飛び込んできたのは。
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