十.動き出す悪意

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「死にたくねぇんだよぅ、まだぁっ!」 形相は必死、出鱈目に刃を振り回すその姿。 読めない動きは、あたしやゆのかを案じる松之丞様を躊躇わせ、受け流す事に専念させる。 とは言えずぶの素人の太刀筋だ、いくら滅茶苦茶であろうとも、ただ機を伺っていたに過ぎないんだろう。 ──キィン 軽く踏み込んだ、と見たときには、相手の得物は甲高い音と共に、宙を舞っていた。 そのままの勢いで男の腕を取ると、後ろ手に捻り上げて地に伏せさせる。 「くそっ……くそぅ……死にたくねぇ、死にたくねぇ」 未練がましく唸り声を上げ、じたばたと暴れる男の背に膝を着き抑えながら、松之丞様はこちらに目を向けた。 「済まぬが、人を。俺はこやつを抑えていなければならぬからな」 「あぁ、縄が借りられないか聞いてみるよ。また暴れられちゃ、敵わないからねぇ」 一つ頷いて返して、踵を返す。 また、医者にゃ手間を取らせちまうけど、仕方がない。 戸に手を掛けた。 ──と。 「いっ、嫌だぁっ……死ぬのはっ……嫌だぁぁっっ!!」 一際大きな声に、足を止めざるを得ない。 振り返ったあたしの目に、飛び込んできたのは。
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