十.動き出す悪意

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瞬く間に黒い痣に飲み込まれて行く、男の体。 「「なっっ!!」」 松之丞様と、あたしの声が重なる。 「ゆのか殿、早く医者を!」 このままでは、貴重な証人が失われる。そう考えるあたしよりも一歩早く、松之丞様が叫んだ。そうしながら、戒めた男を一度放し、様子を伺う。 一連の光景の中、唯立ち竦んでいたゆのかの体が、大きく震える。 「す、すぐに、戻ります!」 けれどそれは束の間の事で、機敏に戸口に駆け込み、姿を消した。 その間にも男の体の黒蝶は増すばかりで、留まる気配はない。 ──こいつは、間に合わないかもねぇ。 ならば…… 最後に女についてだけは、聞き出さなきゃならない。黒蝶病を追うあたしを、狙ってきたんだ。全くの無関係の筈もない。 傍らに膝を着き、その顔を覗き込む。 ──っっ!! 黒蝶が(もたら)す激痛で、もう殆ど意識なんて残っちゃいないだろうと、そう思っていた男は、(にわか)にこちらへ手を伸ばし、あたしの腕を掴んだ。 ぎりぎりと音がする程の、力強さ。
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