70人が本棚に入れています
本棚に追加
瞬く間に黒い痣に飲み込まれて行く、男の体。
「「なっっ!!」」
松之丞様と、あたしの声が重なる。
「ゆのか殿、早く医者を!」
このままでは、貴重な証人が失われる。そう考えるあたしよりも一歩早く、松之丞様が叫んだ。そうしながら、戒めた男を一度放し、様子を伺う。
一連の光景の中、唯立ち竦んでいたゆのかの体が、大きく震える。
「す、すぐに、戻ります!」
けれどそれは束の間の事で、機敏に戸口に駆け込み、姿を消した。
その間にも男の体の黒蝶は増すばかりで、留まる気配はない。
──こいつは、間に合わないかもねぇ。
ならば……
最後に女についてだけは、聞き出さなきゃならない。黒蝶病を追うあたしを、狙ってきたんだ。全くの無関係の筈もない。
傍らに膝を着き、その顔を覗き込む。
──っっ!!
黒蝶が齎す激痛で、もう殆ど意識なんて残っちゃいないだろうと、そう思っていた男は、俄にこちらへ手を伸ばし、あたしの腕を掴んだ。
ぎりぎりと音がする程の、力強さ。
最初のコメントを投稿しよう!