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江戸の夜は暗い――
細った月の淡い光を隔てる、部屋の内であるなら猶の事だ。
ぼんやりとした行灯の明かりだけが、闇の中から部屋の様子を浮かび上がらせる。
辺りに脱ぎ捨てられた二組の着物。一枚は、その丈から男のものであろう。派手な緋色の着流し。もう一枚は簡素な中に粋を窺わせる、紺の小袖。
それを追っていくと、中央に敷かれた一組の布団。その脇には一振りの刀が、それだけ場違いであるかの様に丁寧に置かれている。
最後に閨の中で絡み合う、男と女。
どちらも息は荒く、終焉が近いことを感じさせる。
男の激しい動きに女は甲高い声を上げ、恍惚と乱れる。男の背に鮮やかに彫り上げられた黒い龍が動きに合わせ、薄明かりの中をまるで生きているかの如くに蠢く。
だが、荒々しい攻めとは裏腹に、男の瞳はどこか冷めたものだ。
鋭いその光と背の刺青から、男が堅気でない事が窺い知れる。冷めた瞳はそのままに、更に女を追い込むように攻め立てる。
終焉を拒む様に耐えていた女であったが、男が首筋に強く吸い付くと一際高い声を上げ、果てた。
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