石畳のサーカス

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 赤と黄色の派手なテントにショッキングピンクの旗が揺れる。  人々が吸い込まれては、笑顔で吐き出される魔法の空間。  ミラは、母に新調してもらったライトブルーのワンピースに身を包み、お気に入りの白いエプロンをなびかせながら、傍らにいる父に言った。  「父様、ありがとう」  厳格な父が彼女をサーカスに連れてゆくなど奇跡に近い。 むしろ父と外を歩けるだなんて、それこそ神が与えた至福に感じられる。  なぜなら、彼女は異形。  目の色が片方ずつ異なっているのだ。  普段は、髪の色に不釣り合いな左の青い瞳を眼帯で隠している。  周囲には目が不自由なことになっているのだ。 そのほうが、排他的な街で生きるため、異形よりずっと迫害は少ない。  しかし、今日は。 薄暗いテントの中。 おそらく最初で最後の娯楽 サーカス。  父は、自慢のカイゼル髭を撫でながら、今日は両目でものを見ても良い。と告げた。  それだけでも、少女は嬉しくてたまらないというのに、サーカスの面白いことといったらない。  ジャグラーのお手玉や、それを真似て失敗するクラウンには、散々笑わされた。  猛獣のショーでは、ライオンや虎といった獰猛な獣たちが、トレーナーの鞭に従い、華麗に火の輪をくぐる。 吠える。 跳ぶ。  息をも尽かせぬ迫力と楽しさに少女は震えた。  ショーも終盤にさしかかり、サーカス1の人気者、クマのモリアによる曲芸が始まった。  2メートルはあろうかという巨体で上手くバランスをとり、玉乗りをする。  そのまま投げられたエサを口でキャッチする。  器用に自転車に乗る。  最後にクマは、クラウン達と一礼して去って行った。  その瞬間、クマの黒い瞳と少女の青い瞳がバチバチっと火花を散らすように合った。  彼女は痺れたように動けなくなり、父の腕をギュッとつかんだ。  まだ10歳にも満たない少女の味わったことのない感情だった。
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