恋する乙女に罪はなし

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四季映姫。 死者を裁く閻魔、何者にも影響されず、迷うことがない別次元の存在。 いつだって己の職務を真剣に真っ当する少女、少なくとも見た目は少女。 「ふぅ」 その映姫は仕事に身が入らずにため息を吐いた。 今日、どれだけの人数を裁き、どれだけお仕置きしたか覚えていない。 きっと今日もサボっている小町を説教する気にもならない……上司として注意するが。 こんなに仕事に身が入らないなら今日はいっそのこと止めた方がいいかもしれない、と映姫は再びため息をつく。 「…………」 何処を見る訳でもなく宙を漂っていた視線が手の中の悔悟棒を捉える。 そこには先ほどまで裁いていたであろう罪人の罪状が書きこまれていた。 「……浮気?」 割と重い、おそらく何人かと肉体関係を持ったのだろう。 そんなことを考えながら悔悟棒に書き込まれている罪状を消す。 昔は罪人一人につき一つの棒を用意して使い終わったら捨てたものだ。だが今はエコとやらのことを考えて再利用可能なものになっている。 もし間違えても消せば済むのだからエコも悪くない。 「…………」 特に意味はなかった。 だが気づいたら『それ』を悔悟棒に書き込んでいた。 『恋』 その一文字を見た瞬間、自分の正気を疑った。 罪状を書き込むべきところに自分は何を書き込んでいるんだ。 書きこんだ後も悔悟棒の重さは変わらない。 そりゃそうだ、と思いながらも何故かほっとする自分がいた。
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