雄大の秘密

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雄大の秘密

秋本番に近づいて来た頃、あたしたちの学校では文化祭が始まろうとしていた。 この学校ではくじ引きで役割を決めるらしい。 あたしは運悪く雄大と文化祭の準備の担当になってしまった。 しかも今日の放課後に早速やれと担任から言われた。 いや、やれって言われましても…。 成す術もなく放課後になってしまった。 「どうしようか。とりあえずやりますか」 「そうだな」 「ねえ、ここってどうするんだっけ?」 「ここはな。こうしてこうすんだよ」 ふたりだけの準備というものはとにかく大変なもので。 でもくじ引きで引いてしまったものはしょうがない。 それにしても…。 「頑張るねえ」 あたしはやる気がこれっぽっちもないのに雄大だけはせっせと働いている。 「まあな。一応、クラスのことだし」 「何か意外」 「何が?」 「見るからにそういう顔してないじゃん?」 「そうか?」 あたし雄大のこと何にも知らないんだ。 クラスの為に働いてるのにあたしってばひとりで自分勝手になって。 少しは見習わないと!! 「雄大!!あたしもクラスの為に頑張るよ」 「おう。」 それからあたしは気合いを入れて次々と作業を進ませる。 時間というものは恐ろしいなと思う程早いもので。 4時だった時間がいつの間にか7時になっている。 「今日はこの辺にしとくか。美愛、帰るぞ」 「あ、うん…」 外に出るとさっきまであったまっていた体が一気に冷たくなる。 「寒っ…」 「大丈夫か?これ、羽織ってろ」 「え?でも…雄大は?」 「ナメんな。俺は男だ」 「じゃあ。お言葉に甘えて…ありがとう」 雄大は鼻を摩りながら『うす』と呟いた。 これは雄大の癖。 恥ずかしい時いつも鼻を摩る。 雄大の優しさはあたしにしかわからないと思う。 ろくに授業を受けてない雄大が。 ろくに話を聞かない雄大が。 今クラスの為に頑張ってる。 みんなはきっと雄大のこと勘違いしてる。 『あいつは文化祭もどうせ適当にやるんだろう』 『柴本はああだからきっと文句を言うだろう』 これはあたしの推測なんだけど。 雄大の顔はどこか綻んでた。
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