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 躓いてしまったソファから聞こえる声。掴まれている鈴那の右手は、手のひらに汗がにじんでいた。 「もしかして、何も言わずに帰ろうとしたとか?」  図星だったので鈴那が何も言えずにいると、「まぁいい」と手を放してくれた。 「す、すみません。お世話になりました」 「いいえ」  暗がりの中で、男の顔を確認しようと鈴那はソファを覗き込もうとした。すると突然、部屋の明かりが点いた。思わず眩しさに目を細める。光に目が慣れてきたところで男の顔を確認し、思わず「あっ!」と、声を上げてしまった。  曖昧な記憶をたどって名前を探す。確か……桐島といっていたはずだ。  桐島は手に持っていた照明のリモコンをテーブルに置き、鈴那を見た。 「ねぇ……髪ボサボサだよ」  いきなりそう言われて、鈴那は恥ずかしくなり手櫛を通した。 「何でここにいるのかって顔してるね」  まさにその通りだ。 「ここは俺の家。君の家、一応知っているから、ついでに送って行ったんだけど、何度起こしても起きないから、仕方なくここに連れてきたってわけ」  あのままバーで酔い潰れてしまったのだと、ようやく鈴那は状況が把握できた。
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