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「お帰りなさい」
そう言って出迎えると、旦那である、玉置 奏太が疲れた顔をしながらも笑顔を見せた。
「ただいま。何だろ、良い匂いがする」
「何でしょう?当ててみて」
洗面所へ消えていく背中に問い掛けると、「うーん」と嬉しそうな声が聞こえた。
「ビーフシチューかな?」
「おしい、正解はビーフカレーでした」
「あはは、ソレはズルいだろ」
可笑しそうな笑い声を聞きながら、鍋に火を点けた。
奏太と知り合ったのは八年前。付き合うようになったのは六年前。そして四年前に結婚した。
彼は優しくて真面目で、キスも上手。男としても、夫としても素晴らしい人だ。だから、彼が私を選んでくれた事は本当に嬉しかったし、今も私は、彼のおかげで幸せだ。
「奏太、」
「うん?」
口の端にカレーソースを付けた子供みたいな顔も、また愛おしいと思う。
「来週の金曜、友達と遊んで来ても良い?」
指の腹で拭ってあげながら、媚びるような目で見つめてみた。
「その…、一泊しても良い、かな」
「一泊?誰と?」
「祥子よ。ほら、高校からの友達の。何回か会ったことあるでしょ?」
斜め上を見ながら考える素振りをする彼の横で、私の心臓は密かに鼓動を早める。
「あー、滝川さん!うん、分かるよ。こないだ結婚したばかりの人でしょ?」
「そう、それが来週帰ってくるの。久し振りに会いたいし…
ねぇ、駄目?」
「良いよ。楽しんどいで。だけど、お酒の飲み過ぎに注意だよ」
優しい、甘すぎる笑顔で彼は言った。
「ありがとう」
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