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次に意識が戻った時は、薫の姿は無かった。
床に倒れていた真琴は、辺りを見渡す。
視線に入って来たのは、静かに読書をする薫であった。
薫にそろり、そろりと近付くと、薫は真琴に気付かない。
『薫、薫や。心配しておった…お主、そんなにボロボロになって…すまぬ、わしが気付くのが遅かったせいじゃ』
『………………』
『ん!?…薫、薫。おーい!!わしの声が聞こえんのかえ?』
『真琴様。どうやら、薫様は本来の力が弱まっており、真琴様の姿はおろか声も聞こえていないようです』
『そんな、馬鹿な。そんなことありえんっっ!!薫や、わしじゃ。わしじゃよ!!薫…薫!!』
読書をする薫の周りを、バタバタとうるさいくらいに羽の音を鳴らし、必死にアピールするが、薫の表情は変わらぬまま。
優しい笑顔は、見られなくなった…
薫に自分の姿が見えなくなってしまった現実を痛感した真琴は、酷い喪失感に襲われた。
それと同時に沸き上がる、怒りの感情。
自分に対しての怒り。そして、薫をこんなにも追い詰めた黒幕に、負のエネルギーが許せなかった。
真琴の眼差しは、怖いくらいに力強く、ビーズを握り締めてスタスタと走り出し、外へ勢い良く、素早く飛び立った。
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