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ドスドスと鬼が近付いて来る。
まさか、あの人の発句集を持ち出したのがバレたのでは…?
そう身構えていると、例の如く眉間に皺を寄せた土方が無言で部屋に入ってきた。
「ひ、土方さん?
いつも私には“部屋に入る前に声を掛けろ”と常々言っている貴方が…って何かありました?」
発句集の事であれば、開口一番「そうじーっ!!!」と何処に居ようが大声で撒き散らして追ってくるはず。
しかし、眉間の皺はいつもの事だが、深刻そうに無言を貫くからには、重要な話なのだろう。
沖田も自然と真剣な表情になり、姿勢を正した。
「…芹沢が帰って来た。」
「はぁ…、それであの子を任されたって訳ですね。」
沖田は普段飄々として食えない男だが、こういう鋭い面もあり侮れないのは味方であれ事実だ。
しかし、こういう秘密裏に事を進めたい時などには、言わずも理解して行動してくれる。
単に芹沢と仲が良いってだけで沖田を選んだのではない。
沖田なら言わずとも動いてた、という確信すらある。
なら、土方は何を言いにきたか。
沖田が気付かない訳がない。
土方は緩やかな動作で口を開く。
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