平凡な日常

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京にある創業百年、客を選ばない旅館、絹屋。 ここで養女に来て一年。今や若女将として働いている、悠。今年十七になったばかりだ。 「お悠、桐の間のお客さまに持って行ってぇや」 ここの女将、悠の養母であるお紀伊は悠に酒を持っていかせた。黙って持って行こうとする悠にお紀伊は、 「失礼ないようにな。桐の間のお客さまは新選組やで」 「新選組?……壬生狼どすか?それなら心配はおへん」 「あんさん、もっと愛想よくしようや……」 「それも心配はおへん。作り笑顔はうちの特技やさかい」 そんなものを特技にしても……お紀伊は呆れるばかりだった。 ──悠は酒を運んだ後、仕事をほったらかし自室へ戻っていた。 そこにある鏡を見てみる。 お世辞なら可愛いと言えるかもしれないが、どう見ても普通の顔。 手足は細いが何の意味もない。 これと言った特徴がない。 長年の悠の悩みだった。 年頃で友人達は嫁いでいく。 正直羨ましかった。 「せめて何か取り柄があれば……」 悠は誰もいない静まり返った部屋鏡を見ながら呟いた。 普通の毎日これはこれでいいか、と諦めてもいた。 その後、悠がお紀伊からこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
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