その手を引く者などいない

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とある日の夜… 時刻は午後八時を過ぎた頃。 ここは学園都市第一○学区にある墓地。 夜の墓地というものは自然と人目を遠ざけ不気味な雰囲気を演出する。 そんな非日常に近いこの重苦しい空間に一人の男が立っていた。 いや…正しくは、ある墓前の前で合掌し目を閉じていた。 男は身長180センチ前後、オールバック風の短髪で髪も目も深海のような深い青色をしている。 そしてハーフっぽい顔つきの…いわゆるイケメンだ。 「芳香(よしか)…すまん」 男が呟く。 どうやらここは芳香という名の人物の墓前のようだ。 「もうすぐだ…もうすぐ奴のAIM拡散力場を捕らえられる。これも滝壺理后(たきつぼりこう)という少女の協力のおかげだ」 AIM拡散力場とは、能力者が無自覚に発している微弱な力のフィールドの事である。 (AIMはアン・インボランタリー・ムーブメントの略で「無自覚」という意味) 「…お前の仇、必ずとっ…」 そう言いかけたところで男の携帯電話の着信が鳴った。 …ピッ 「もしもし、こちらクザ…」 『もしもしクザン君?こちらアンチスキル未確認災害対策部特務課の八条(はちじょう)です』 電話は八条という名の女性からだった。 そして八条にクザンと呼ばれた男は、自分の言葉を二度も遮られたことを気にせず「やれやれ…」といった仕草で携帯を持ち直した。 「八条さん、今夜俺は非番だったは…」 『先ほど午後八○○五時、学園都市第二学区にて未確認災害が発生、至急急行してください。詳細は……』 どうやら八条はいつもこういう調子らしい。 そしてクザンもこの八条の性格に慣れ(諦め)ているようだ。
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