第一章

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その障気は、人にありとあらゆる害をもたらす。 人を廃人にしてしまうこともあるのだ。 ファティは、心配になって男の子の顔を覗き込んだ。 廃人特有の虚ろな瞳はしていない。 ホッと胸を撫で下ろすと、男の子が小さな……、しかし確かな声で呟いた。 「お姉さんは、だれ?」 「私は、ファティ。 メスト学院所属の聖士隊、クロイツ隊隊長だ。 少年、君の名は?」 「…………ロクシス。ロクシス、です」 ファティは、力強くロクシスと名乗った男の子を抱きしめた。 「もう、大丈夫。 私たちが、君を保護した。 もう大丈夫だ」 ファティの顔の横で、ロクシスの頭が力なく頷かれた。 部下の若者に、ロクシスを預けると、ファティは灰色の空を見上げた。 異法使いの障気に当てられながら、感染らしい感染症が見当たらない。 こんな事態は初めてだ。 「一体ロクシスは……」 ファティは、男の子──ロクシスの小さな背中を見つめ、小さく呟いた。 その日、エステリアスは観測史上類を見ない、豪雨に見舞われた。
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