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その障気は、人にありとあらゆる害をもたらす。
人を廃人にしてしまうこともあるのだ。
ファティは、心配になって男の子の顔を覗き込んだ。
廃人特有の虚ろな瞳はしていない。
ホッと胸を撫で下ろすと、男の子が小さな……、しかし確かな声で呟いた。
「お姉さんは、だれ?」
「私は、ファティ。
メスト学院所属の聖士隊、クロイツ隊隊長だ。
少年、君の名は?」
「…………ロクシス。ロクシス、です」
ファティは、力強くロクシスと名乗った男の子を抱きしめた。
「もう、大丈夫。
私たちが、君を保護した。
もう大丈夫だ」
ファティの顔の横で、ロクシスの頭が力なく頷かれた。
部下の若者に、ロクシスを預けると、ファティは灰色の空を見上げた。
異法使いの障気に当てられながら、感染らしい感染症が見当たらない。
こんな事態は初めてだ。
「一体ロクシスは……」
ファティは、男の子──ロクシスの小さな背中を見つめ、小さく呟いた。
その日、エステリアスは観測史上類を見ない、豪雨に見舞われた。
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