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雨が降っている。
身も凍るような凍て付く滴の刃が。
地面にできた水溜まりに次々と波紋を打ち立てていく。
──あぁ、またあの夢か。
焔に包まれ崩れた廃屋の中に、小さな男の子が座り込んでいる。
激しい雨音で、人の足音など掻き消えていた。
男の子の前に、突然、黒髪の女性が現われた。
「すまないな。我々がもっと早く来ていたら、君の家族を死なせずに済んだのだが……」
──ファティ師匠……。
黒髪の女性が、男の子を抱きしめた。
そして、全ての景色が真っ白い光に包まれて、消えていった。
「おーい、こんな所で寝てたら風邪引くよー?」
クスクス笑いが含まれた声が、上から降ってきた。
それを合図に、重い瞼を開けると、そこにはよく見知った顔が、こちらを覗き込んでいた。
「リリィか。何の用だ?」
「何の用だ? じゃないでしょ!
どーせまた訓練中に飽きて昼寝してるんだろうな、と思ってお弁当持ってきたのに!」
綺麗な緑色の髪に、特徴的な大きな碧眼、桜色の唇をした女の子──リリィは、唇を尖らせて両手を腰に当てた。
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