第一話 虚ろなる転

4/13

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
あの十年前の、冷たい雨が降った日……。 あの日から、すべてが始まった。 ──あの日は、いつもと変らない穏やかな日だった。 父さんも母さんも、畑仕事をしていたし、妹のイーシャも外で遊んでいた。 自分だけが、家の中で昼寝をしていた。 いつも通りだった。 それが突然、崩壊した。 イーシャの叫び声がして、飛び起きると、すでに村は焔に包まれていた。 勿論、外に飛び出したわけじゃない。 臆病な自分は、窓から外の様子を窺っていた。 外には、二足歩行のトカゲの怪物が何匹も闊歩している。 異法使いだ。 大した知能も持たない生命体だが、トカゲたちの使う異法によって生じる障気は脅威だ。 腐食、人格喪失、記憶の欠落、火傷、昏倒、嘔吐、融解、病……、最悪の場合絶命することもある。 イーシャの姿は、もう外にはなかった。 逃げ惑う村人たちが、トカゲたちの異法にやられ、喰われていく。 恐怖に飲み込まれ、足が竦み、その場に座り込んだ。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加