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1.欠損
恋人が手を繋いで歩いている。
そんな光景が日常の中で当たり前のことになっている。
少し前までなら、そんな幸せそうな恋人達を見ると、殺意すら覚えるほどだったが、今は全くそんな感情はない。
いや、なかったことに気が付いた、というべきだろうか。
かつて、俺にも恋人がいた。共通の知人がいたことが出会いのきっかけという、いかにもありがちだ。
自分で言うのもなんだがそれなりの付き合いをしていたが、決定的なズレが生じ、結局別れを迎えることになった。
そのズレこそがこの感情だ。
別れ話になったとき、彼女は涙を流していた。
漫画やドラマでよく見る光景だっただけに、驚いた。
だが、すぐに違和感に気付く。
それは他でもない自分。涙など流れないのだ。
この気持ちのズレには以前から気付いていた。
「会いたい」なんてメールが来たことはあるが送ったことは一度もない。
嫌いなわけじゃない。むしろ好きなはずだ。
それなのに、俺の心が彼女の心を欲することはなかった。
そんな心の渇きを潤すのはセックスの快感だけだった。
彼女もそれに気付かないほど馬鹿な女ではなかったようで、ほどなくして別れることになったのだ。
それから、何度か俺は恋人を作ったことはあったが、いずれも同じような終わりを迎えるだけだった。
そして、俺はいつの頃からか異性を求めることがなくなったのだ。
その感情がなければ、恋人たちがいくらイチャついていても何も感じない。
何故なら、その状況に羨望の思いを抱くことがないからだ。
むしろ、初めからそんな感情は持ち合わせていなかったのだ。
会えないだけで涙が流れるほど人を愛することができる、そんな感情が生まれつき欠損していたのだろう。
そして俺は異性は性欲の捌け口。という結論にたどり着いたのだ。
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