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「県外だから多分わからない。大河内歌奈(おおこうちかな)」
一先ず自由に選んだ席順で、挨拶は順調に進み、あれの番まで後一列。
一体どんなヘマをやらかしてくれるのか、楽しみだ。
「し…松鷹出身!みざぎっ」
あ、噛んだ。ダメダメじゃん。
「三崎徹(みさきとおる)っ!お、大河内さんの、彼氏やってます!」
挨拶まだでそわそわした残り半分と、もう終わった半分が、それぞれ同様にざわめく。
把握した。
隣の女子、それもかなりの美少女(麻倉ほどじゃないか?)の大河内は、おそらく相手にはしないだろう。
変な事言わないでとでも言われながらぶたれ、馬鹿な奴と大爆笑。そういう狙いか。
「ふぅん……」
大河内は静かに立ち上がり、徹の方を向いて小さく一歩前に出る。
「え?」
あれ?おかしいよ。なんかおかしい事が起きたよ?
どんな理由と目論みがあって、こんなことが起きてるの?
「よ、余所でやりなさい!」
たっぷり十秒は経った頃、真っ先にトランス状態から戻った担任が、二人を引き離す。
キス、接吻、口づけ、A、様々な呼び名を持つその行為。
クラスの皆が見せ付けられたのは、他でもないそれだった。
滑らかな動きで高さのほとんど変わらない顎に指を当て、小さく口付けてから、両手を首の後ろに回して何かを耳元で囁く。
小さく紡がれる言葉は、徹以外には届かない。もちろん、このあたしにも。
見せ付けられた。
誰の目にもそう映る光景だった。
ガチガチド真面目自己紹介に始まり、ギャップで引かれる恐怖から真面目一辺倒で過ごした中学時代。
そんな日々との決別を目的とした新たなステップは、図らずも成功したようだった。
……少なくとも、中学時代とは同じようにはならない。
真に成功かどうかは関係なく、それでも、それは確信出来た。
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