『一千一秒物語』

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大正十二年一月に、金星堂から単行本『一千一秒物語』として出版されました、稲垣足穂の文学作品です。 (ちくま文庫の『稲垣足穂コレクション1一千一秒物語』の「初出一覧」を参考にさせていただきました) 小説のカテゴリーで、『respect T.I.』という掌編を載せていますが、実はコレには元ネタがあります。 それがこの、稲垣足穂『一千一秒物語』です。(T.I.はTaruhoInagakiです) 『一千一秒物語』みたいなのを自分でも書きたいな、と思って書いたのが『respect T.I.』です。 では『一千一秒物語』とはどんな作品かというと、正直な話、さっぱりわかりません。 月や星、ピストル、怪しい人々、タバコなどのモチーフが現れるごく短い話(二行で終わるようなものも)が連続しているのですが、これがさっぱり理解できません。それがなんとも、おもしろいのです。 短くてなんだかわからない、というと夏目漱石先生の「夢十夜」や内田百聞先生(正しい字が出せなかったのでコレで失礼)の諸作などが思い浮かぶかもしれませんが「一千一秒物語」はまたずいぶん趣が異なります。 まず何より陰気な雰囲気が全然ありません。得体の知れない話ばかりなのですが、不安を感じるようなことはありません。これは人にもよるでしょうが。 「一千一秒物語」は、澄んで綺麗な感じがします。それでいて華奢な感じはあまりしません。変に強いです。変に、とうのは上手く言えませんが、これはパワフルだとかタフなどと言ってしまうと違ってしまいます。傲慢というと多少近い気がしますが、その語の持つ不快さはまったくありません。 夜の話が多いのですが、鮮明な明るさがあります。それは気分的な暗い・明るいではなくて、純粋に明度としての明るさです。 逆に感傷や憧れのような人間味はあまり見えてきません。当然これも人間(というか足穂先生)が書いているわけですが、どうも人間が書いたとは思われないところがあります。 流れ星か何か(あるいは月、宇宙)から降って湧いた話、と思うととてもしっくりきます。 これがなんとも、おもしろいのです。 足穂先生は「ぼくの書くものは、すべて『一千一秒物語』の註にすぎない」と仰っているそうなので(ちくま文庫の解説より)、すべての作品を読めばもうちょっとなんだかわかるようになるのかもしれませんが、とりあえず感覚的に楽しんでいればいいんじゃないかなという気がします。
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