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待つこと、数十分後。廣田吉之助はやって来た。
四角い顔に蓬色の着物に抹茶色の羽織りを羽織っている。
「待たせたね。芳明君に隆雄君。」
音羽を見ると、涙が出そうになってしまうのを押し止める。
できれば、手放したくない。手放したくはないが音羽が、行かせてくれないと一生口を聞いてくれないと言った。
(ああ、また泣きそう。)
廣田の横から、精悍な体つきの青年が出てきた。引き締まった肉体に、よく日に焼けた肌。垂れ目の瞳は黒色。優しさと厳しさが同居してそうな眼力だ。
焦げ茶色の髪は後ろで束ねてあり短い尾のようだ。
粋な紺色の着流し姿である。
「あ、ああ。紹介しよう。用心棒の紫暮(しぐれ)さんだ。」
「よろしく。あんたらを無事に京へ連れて行く。」
凄みのある顔とは反対に話すと気さくな青年だ。
「よろしくお願いします。」
4人は、頭を下げる。
隆雄と芳明は、きっと自分らだけだったなら用心棒なんてつけなかっただろうなと思いつつ、廣田の親馬鹿ぶりに笑いをこらえた。
「まあ、父様。用心棒なんていいですのに。」
「いや、いやいや。京への道のりは物騒と言うじゃないか。音羽には安全に京へ行ってほしいんだよ。」
廣田は、音羽の小さい肩に手を置いた。
「お前が向こうで必要なものは、文を送って揃えさせるから安心しなさいね。あと生水には気をつけて。それと、はしゃぎすぎて皆さんと離れてはいけないよ。それと、それと」
「だーっ。廣田さん、これが今生の別れじゃないんだからもういいでしょう!」
これではいっこうに話しが終わらないので隆雄は吠えた。
「そうですよ。そろそろ出発しねぇと宿に着けませんや」
紫暮も横から助け舟をだす。
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