風結ぶ花の行方

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「ところで、紫暮さんは用心棒の仕事をしてるんですか?」 譲葉は、傍らを歩く紫暮に声をかけた。 「いや、今回はたまたまだ。」 苦笑したように紫暮は笑って 「廣田殿にどうしてもと頼まれたもんでね。」 「父とは知り合いなんですか?」 「ん、いや。こないだ荒れくれ者に襲われていたのを助けたんだ。」 なるほど、廣田さんはその時この男の力量を見たのか。 「で、たまたま俺も京へ戻る所だったんでね。」 引き受けたんだ。と紫暮は言った。 「京の方だったんですか?」 芳明は驚きを隠せない様子で尋ねた。 紫暮は、どこをとっても粋なのだ。 だから、江戸の人間だと思っていた。それに、言葉に上方の訛りがない。 「ああ。つっても京の外れだがな。」 紫暮が眉をしかめて芳明の方に手を差し出した。 「荷物よこせ。」 1時間しか歩いていないのに芳明はすでに汗だくで息が上がっている。 「いや、しかし」 「いいから。」 紫暮は無理矢理、芳明の医療木箱をひたくった。 「芳明は、体力がないらなぁ。」 隆雄が横から茶化し、芳明のかるっている荷物を引きはがして担いだ。 その通りなので反論出来ない。 「…すまない。」 「別にー。京についたら美味いもん馳走してくれよな。」 芳明は、笑って 「ああ、たらふく食わせてやる。」 紫暮がが、音羽と譲葉を見やった。 「お嬢達は、大丈夫か?」 「はい、大丈夫です。兄上とは違って鍛えていますから」 「私も大丈夫です。」 二人の朗らかな答えに、芳明は少し凹んだ。 「もう少ししたら休もう。そこまで頑張れるか?」 芳明は、頷いた。
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