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◇◇◇
京
呉服問屋「桜木屋」
若旦那の龍之介は、父の遺体と対面していた。
「…なんで。」
昨夜、酔って溝に落ち馬に蹴られて死亡。
「こないな変な死に方するんや。」
返ってくる返事はすでに無いのだが。
「あんた!」
母の葵が、部屋に入るなり悲鳴をあげた。
父に駆け寄り、その場に崩れ落ちた。
「し、…死んではるん?」
龍之介は、母に頷いた。
涙は出ない。
ろくでもない父親。
道楽に金をかけ、店を一時傾けさせた。
そこは、母の手腕でなんとか立てなおした。
「おばさん!龍之介!陽三はんが亡くなったてっ!。」
龍之介の友人雅彦が息を吐きながら部屋に入ってきた。
のっぺりとした顔の龍之介と違い雅彦は美男子である。
「雅彦…。さすが耳が早いな」
雅彦は、部屋の中央で寝かされている陽三を見た。
「陽三はん…。」
龍之介は、顔を引き締めて父親の遺体を運んできた柄の悪そうな2人の男を見た。
「父を…連れてきて貰って感謝します。」
龍之介は、番頭の月岡を呼び寄せた。
「これは、お礼です。納めてください。」
月岡が白い袱紗(ふくさ)の包みを男達の前に置いた。
一人の男が不適に笑い。
懐に手をつっこんだ。
「兄さん、それだけじゃあ足りねぇなぁ。」
そう言って、白い紙を出して龍之介につきつけた。
「桜木屋の陽三(ようぞう)の借用書や。しめて800両、払ってもらおうか!」
「うちにそないな金はありまへん。」
龍之介は、唇をかみしめた。
葵も声を失っているようだ。
「いつのまに、そないな大金…。」
男は口を歪めて笑った。
「陽三は、博打で負け続けてたからなぁ。で、この家ごと売り払ってもらおうか。」
葵と龍之介は青冷めた。
龍之介は、雅彦を見た。
雅彦は、青冷めた顔で首を横に振った。
「いくらうちでも、そないな大金無理や。100両はなんとかなるが」
「いや、その気持ちだけで嬉しいよ」
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