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「そんな!3代も続いたこの店を売るやなんて!」
男は下品た笑みを浮かべた。
「娘がおれば、花街に売り飛ばすことも出来るが…桜木屋は息子しかおらんしの。かと言って女中を売り飛ばすわけにもいかんしの。女将さんは…年だから買い手はつかんだろうしなぁ。」
龍之介は露骨に顔をしかめた。
葵は、はっとしたように月岡をみた。
「月岡、アレを連れてきておくれ。」
月岡は、頷いて立ち上がった。
「母さん!まさか!」
「仕方ないやろ!店の存続のためや」
数分後、月岡が少女を連れて来た。
「ひぃっ!」
男の一人が悲鳴をあげかけた。
雅彦も、言葉を失っている。
部屋の入口に立っている少女は薄水色の着物を纏っている。
白い面を隠すかのように足先まである長い髪が顔に垂れている。
暗い所で見たならば、悲鳴をあげて逃げだすこと請け合いだ。
少女は、じっと陽三を見つめ足を進めた。
男の一人は、完全に震え上がっている。
ぴたり。
陽三の前で足をとめ伺うように体を曲げた。
「ははっ、死んではる。」
思ったよりも可憐な声が少女から漏れる。
葵が憎悪のこもった目で少女を睨みつけながら頭を掴んでひざまかせた。
「痛つっっ!」
葵は、男達に向かって言った
「この子でどうや!」
震えている男は、ご勘弁を!と心の中で悲鳴をあげた。
ぐいっ、と前髪を引っ張り男達に顔を見せさせる。
「!」
「ほぅ!」
そこには、花のように美しい美少女の顔があった。
「名前は、椿。年は17。字も読めるし書ける。琴と三味線は習わしてる。この子を売るわ。」
男は、物色するように椿を眺めた。
「これなら、高く売れよう。まぁ、年期は長いやろうけどな。しかし、女将さん、これはどこの子だい?」
葵は顔を思いきっり歪ませて汚いものを見るような目で椿を一瞥して吐き捨てるように
「陽三の愛人の子さ。ここまで育ててやったんやから恩返しでもしてほしいわぁ。」
椿は、葵の言葉に小さく笑った。
(あんたに育てて貰った記憶なんてないんやけどなあ。)
手はあげなかったが、たくさん酷い罵声と罵り声は聞いた。
陽三がいなければ、飯抜きなんて当たり前だ。
温かいご飯を食べた記憶さえない。
いつも、いつもいつも座敷牢に閉じ込めて自由さえ与えてくれなかったのに。
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