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「ああ、二人共ここにいたのか。」
声と共に姿を見せたのは譲葉の実兄、芳明(よしあき)である。
ひょろりとした長身に細面の白い顔。線のように細い目に眼鏡をかけている。ゆるみきった唇が人のいい印象を与える。肩より先の長い髪は後ろで一くくりに束ねてある。白い着物に紺色の袴。白い羽織を羽織っている。
「兄様も、お茶を飲まれますか?」
音羽の言葉に、結構だよと手で押し止める。
「二人に話しがあるんだ」
芳明は、二人の前に座った。
「兄上、話してっ?」
「うん、実はね。実雪先生の代わりに京へ行くことになったんだよ」
緊迫感のない声で芳明が言った。本人は、いたって真面目に話しているのだが…。
「ええええ!!」
譲葉と音羽は、同時に叫んだ。
「立つのは三日後で急なんだけど。譲葉は、ここに置いてもらえるようになったから」
「嫌ですっ!」
譲葉は、たまらずお縁から立ち上がった。
「私も、兄上と京へ参ります。それに兄上!」
譲葉は、一息ついて
「兄上は、京がどんな所か知っているんですか?!」
「…物騒な所らしいね。」
「ええ!そりゃあ、もう倒幕、勤皇だと人斬りわんさかですよ!」
人斬りは、わんさかいないと思う。と、芳明が突っ込む間もなく譲葉はまくし立てる。
「兄上が、京に入るなり、袈裟斬りですよっ!私なら、兄上を守れます。剣術も柔術も護身術も習得していますっ!だからっ!」
だから、置いていくなと懇願する。
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