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◇◇◇
譲葉は家に帰り、早速旅の支度にかかった。
音羽は父の廣田吉之助(ひろたきちのすけ)の説得が難航しているようだ。
やはり、可愛い一人娘を旅に出すのは嫌なのだろう。
譲葉も、初めてての旅だ。
(京は…雅彦さんがいる所よね。向こうに行けば再会できるかしら)
兄上のことだから、文のひとつでも送っていることだろう。
雅彦とは、従兄弟にあたる。
「叔父さんも、雅彦さんも元気にしてるかな。」
彼らと会ったのは、5年前だ。
父と母の葬式の時に…。
譲葉は、無意識に唇を噛んだ。
「ただいまー。」
間延びした兄の声が聞こえ譲葉は我に返り迎えでた。
この家は、もともと小さな薬屋である。玄関には八畳の広さがあり壁には薬種をしまう薬箪笥が置かれてある。
今は、以前のようにすべての棚に薬種は入ってはいないが。
中央には帳場机が置かれてある。その横の箱には、薬の調合に使う乳鉢や秤などがある。
ここは、もう薬屋をやっていないので芳明の本が大量に山積みされている。
自分の部屋にもう置ける場所は無く、ここに積んでいるのだ。
「譲葉、太郎さんからこれを貰ったよ。譲葉に、てっ。お古で悪いけどね。と、言ってたよ。」
芳明が、緑色の唐草模様の風呂敷を手渡した。
「ううん。お古でも嬉しいわ」
「うん。僕もそう言っておいた。」
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