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風呂敷を広げると、旅の必需品の方位磁石、簡易提灯、水筒、飯籠が入ってある。
「わぁ。嬉しい。明日でもお礼にお団子でも持っていこう。」
「ああ、それがいい。あっ、と。そうそう隆雄(たかお)も一緒に行くことになったよ。」
「隆雄さんも。わぁ、それは頼もしい。」
隆雄は、芳明の同期の薬師であり医者である。
薬師は、薬草を使って患者に治療を施し、医者は、傷を縫ったり手当をする外傷専門である。
隆雄は、よく京と江戸を往復するので頼れるだろう。
譲葉が他に必要なものは…と、指折り数える。
芳明は、そんな妹に小さく笑って
「本当について来るのか?」
「もちろんですとも兄上。」
譲葉はためらうように聞いた
「そんなに…京は長くいるの?」
芳明が緩みきった笑顔のまま、首に手を置いた。
「思ったより、長くなりそうだ。一、ニ年じゃ帰れそうにもない。」
「…そんなに。」
緩みきった兄の表情から、せいぜい年内には帰れるかと思っていた。
「うん。だからね江戸にいたいなら、やっぱり残る」
「ついて行きます。」
芳明の言葉を遮るように譲葉は大きな声をだした。
「兄上と離れ離れになるのは嫌です。」
譲葉の顔が歪む。
芳明は、譲葉の肩を軽く抱いた。
「うん。もう言わない。一緒に京へ行こう。」
父も母もすでにいない。今まで兄妹だけで肩を寄せあって生きてきた。
これからも、それは変わらないで欲しい。
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