風結ぶ花の行方

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2日後。 江戸は晴天。旅立ちの日にはうってつけの天気だ。 昨日は、薬師丸薬種問屋の面々が盛大な宴を催してくれた。 宴の席に音羽がいなかったことから説得は失敗したのだろうか。 このまま別れも言わず出発することに譲葉は気が滅入っていた。 重たい足取りで日本橋へと向かう。 「え?」 思わず譲葉は、呆気に取られた。 そこには、旅の支度を整えた音羽がいる。 「あっ、姉様兄様お早うございます。」 譲葉と芳明は、音羽に駆け寄った。 「音羽ちゃん、京へ行けることになったの?」 「はい、説得に時間が思いの他かかりまして…当日のお知らせになって申し訳ありませんわ。」 音羽は、にっこり笑っていたが最後はしゅんとうなだれた。 「ううん。一緒に行けて嬉しいよ。」 「ああ。」 芳明は、にっこり笑って音羽の頭を撫でた。 「それにしても…隆雄は遅いね。」 芳明が辺りを見渡すと、巨大な人物が大股で近づいてきた。 「よお!芳明に嬢さんに譲葉ちゃん。」 筋肉隆々の大男で、頭はつるりとスキンヘッド。人なつっこい笑顔である。 芳明と確か同い年であったはずだ。 「お久しぶりです。隆雄さん。」 「おう。悪いがしばらく待ってくれ。廣田さんの頼みだ。」 隆雄が、ちらりと音羽に視線をやる。 「嬢さんが、旅に出るからには必要なもんがあるらしい。」 芳明が、小さく咳をして 「ところで、音羽ちゃんの京行きはいつ決まったの?」 音羽は、とびきっりの笑顔で 「今朝ですわ。父様にようやくお許しを頂けましたの。」 その横で隆雄が、ぼそりと 「ありゃあ…お願いつーより脅しだろ」 音羽は、さらに笑みを深くして隆雄を見上げた。 「あら、何か言いまして?」 「いえ、何も。」
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