浴槽

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自分に兄がいたかどうかは覚えていないが、腕の中には一人の男がいる。 私の服の前を開け、胸元に唇を這わせている。 「兄さん」 男の両腕は縋り付くように私の身体に回されていた。 名を呼んでいるからにはその男は私の兄なのだろう。しかし、振りほどこうという気はまるで起きない。 ただ名前を呼び、貪られるまま身を委ねている。 ぐっしょりと重く悲しい気持ちだけを両腕に抱えている。  
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