浴槽

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私は、狭い浴室の空気中に漂う凍った痛みを胸一杯吸い込んだ。 もう温もりなど残っていないと兄に伝えたかった。 呼ぶ声さえもう出ない。 みんな残らず吸い尽くされてしまった。 縋り付く兄の腕の中に自ら差し出したのだ。 足元から身体が少しずつ凍り付いていく。 粉々に砕けようとする。 その刹那。  
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