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今にして思えば、僕は最初から彼女のことが好きだったのかもしれない。
……いや、違うか。『好き』なんじゃない。僕は彼女を『愛していた』んだ。
だからこそ、こんなに僕は必死になっている。
こんなにも必死になって、彼女の大切なものを取り戻そうとしている。
足取りは決して軽いとは言えない。むしろ重々しいとすら言えるだろう。
それだけじゃない。身体のあちこちは久しぶりの長時間の運動に悲鳴を上げている。
もう昔のように元気良く走り回ることも、屋根から屋根へと移動することも出来ない。
それに、本音を漏らせばすぐにでも彼女のいる場所に戻りたい。
優しく抱きしめてもらって、頭を撫でてもらいたい。
そうして、僕の疲れを癒して、僕の心を幸せで一杯にしてもらいたい。
そんな誘惑が何度も僕の頭に浮かんでいく。
そうすることが出来たらどんなに僕は幸せだろう。
どんなに満たされるだろう。でも、僕には歩みを止めることが出来なかった。
だって僕がここで頑張らないと……。
僕がしてしまったことを贖わないと、彼女はきっとまた泣いてしまうから。
もう彼女の涙は見たくない。
彼女が泣いているのを見ると、僕も悲しくなってしまうから。
心が締め付けられて苦しくなってしまうから。
だから……。
また一歩、僕は歩き出す。
彼女を泣かせないために。
僕の罪を贖うために。
……そして、彼女の笑顔を取り戻すために。
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