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《序章 いつかその目に映る虹―Sternebogen―【1】》
「Hi♪」
肩の上に、手が乗っかってきた。
「音楽室って、どこ?」
質問に答えるより早く、その手をふりほどいた。
夏のある日、渡り廊下の真ん中で、あの男は馴れ馴れしく声をかけてきた。
他の男子生徒より頭2つ飛び出した体躯。
金色の髪と藍色の目。
只の詰襟がまるで軍服のようだったのを覚えている。
ああ、これか。
噂の留学生は。
特徴的過ぎる。
すぐにわかった。
「あっち」
短く答えて、窓の外を指さして見せた。
「あっちって?」
「西棟」
「何階のどの部屋?」
「4階の突き当たり」
「どっちの突き当たり?」
「階段上がって右の突き当たり」
「ここからはどうやって行けばいいの?」
「……」
簡潔な説明方法を探して一瞬答えに窮したその刹那、
「案内、してよ」
手を掴まれていた。
「いいよね?」
軽くムカつくくらい白くて、綺麗な手だった。
「……いいけど」
「めんどくさいやつに捕まった」、と思った。
そう。
「捕まった」んだ。
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