8人が本棚に入れています
本棚に追加
マキナがこの「フジムラエージェンシー」で初めて担当することになるアーティスト。
それが「Sternebogen(シュテアネボーゲン)」というロックバンドだ。
書類からわかるのは、20代の青年たちによる5人編制のバンドであること。パートの内訳がボーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムであること。
プロデューサーである藤群自身が海外からスカウトしてきたボーカリストをデビューさせるに当たり、本人の希望でバンドという形を取ることになったという経緯。
2ヶ月後の5月末にデビューシングル発売の予定ですでに各方面動き出していること。
そんな端的な情報ばかりだった。
「プロデュースのコンセプトや、セールス上の戦略もお聞きしたいですし、マネージャーとしてはメンバー個々の情報も把握しなくては……」
「コンセプトや戦略は特に考えてません」
藤群はこともなげに断言する。
「全て白紙の状態です」
「しかし、2ヶ月後にデビューなら、すぐにでも楽曲を用意してレコーディングに入らなければ間に合わないのでは……」
「そうですね~……しかしその前にメンバーがまだ決まっていませんからね~」
「はい?」
「実はまだ、ギターとキーボードとドラムが決まってないんですよ」
あまりにもあっけらかんとした藤群の口調に、マキナは思わず頭を抱えたくなった。
「つまり、ボーカルとベースしかまだ決まっていないと……」
「はい、その通りです」
同じ業界に5年いたのだ、「藤群高麗」なる人物の人となりについて全く聞いていなかったわけではない。
かなりマイペースで風変わり、掴みどころのない人物で極めて浮世離れしている……有り体に言えば「変人」だと。
プロデューサーとしての手腕は業界中に轟いていたが、同時に誰もがその「紙一重」っぷりを噂してもいたのだ。
「残りのメンバーについては、順次オーディションで決定する予定です」
藤群はこの期に及んで、悪びれもなく「順次」だ「予定」だと悠長な単語を連発する。
最初のコメントを投稿しよう!